Pipe dream

enomotoyoru
Pipe dream : 日々の妄想

 彼は僕の機嫌を取ろうと必死だった。
 向けた刃が、その緑の瞳を映す。
 痩せ細った僕の足が少しずつ近づく。
 数秒が永遠に感じられる程長かった。
 でも、それからはあっという間だった。
 彼は喉を、足を投げ出して、指先は僕を示す。
 もう誰もいない個室。
 僕はシャワーを浴びた。
 二度とあの煙草のにおいがしないように。

 ゆらゆらと揺れて、赤い闇が小さく細い棒の先を照らしている。
 これ以上灯ることなどできないのに。
 尽きた灰が私の爪先を焦がす。
 消えた熱の余韻が風になびく。
 私はきっと、この瞬間を忘れられない。

羊水の記憶

 とくとくと流れる、左手首の感覚。
 近くに見える椅子の脚が歪んだ。
 外から聞こえる電車の音も靄がかっている。
 何を、していたんだっけ。
 体は動かない。ただ丸まって、どこかに潜っているような。
 全身の熱が床へ染みていく。
 ようやく最後に、まぶたがゆっくりと落ちた。

言葉

 夜が来る前に、灰になる前に。
 あなたの言葉をください。
 私はそれだけで生きていける。

孤独

 ストーブの近く、スツールの上。
 ゆったりと眠る冬がいた。
 炎も消せない小さな雫をこぼして。

地球

 言葉も愛も、世界を救えない。
 必要なのはペンとノート。あとお金。
 だって、人のためなんて偽物だから。

救済

 私は泣いて誰を呼べばいい?
 見飽きた灯りは視界の底へ消えた。
 私の体は半分で、残りを埋めるのは寂しさだけだ。

姿

 生き恥を晒して。
 苦しむことをやめないでくれ。
 そうやって生きていると、お前も、僕も、人間みたいだ。

記憶

 思い出せるのは笑った顔ばかり。
 もういっそ見限ってほしかった。もっと嫌ってほしかった。
 消えたことに気が付かない、この距離に生かされている。

 私の知らないところで幸せになる、君なんて大嫌い。

怠慢

「何もしなくてもいい」なんて、ただの気休めでしょう。

2024.05.11-update-
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